「失敗をいとわない社風が成長を支えてきた」 ミルボン佐藤龍二社長インタビュー

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「今、稼げるか」ではなく、「ともに発展できるか」

── 「美容室へのメリット」という言葉が出ましたが、ミルボンさんは一貫して美容室の利益を中心に考えていらっしゃいますよね。他のメーカーさんが、ドラッグストアなどで買える商品を増やしている間も、ずっと「B to B to C」を貫いている。 

それは、この先も絶対に変わりません。それが、ミルボンが事業を行う上で、最も大事にする根幹です。 

── 手っ取り早く稼げる手段は選ばない? なぜですか? 

それを「しない」ことが、ミルボンが持続的成長を続けられている理由だからです。もちろん、いろんなお誘いはいただきます。「オージュアを百貨店や化粧品ショップに出したら、すぐに売り上げ2倍、3倍になりますよ!」といったお誘いはたくさんあります。 

たしかに、それはその通りだと思います。すぐに儲かる。それはわかります。でも、3年後どうなるかわからない。私は、今すぐ売上が3倍になることは望んでいません。それよりも、将来的にずっと成長し続けることを選んでいるのです。 

── 美容室を犠牲にしては、双方が持続的に成長できない、と。 

美容師さんやレセプショニストさんなど、美容に従事されている方とともに我々は成長していく。その根幹は、ミルボンという企業が続いていく以上、絶対にブレません。だから、ECサイトを作ったとしても、直販ではなく、「B to B to C」で美容室を中心に考えました。 

店販クロージングに苦手意識を持つ美容師さんは多い

── そのECサイトで使用するミルボンiDの会員数が45万人を突破したと聞きました。これは、コロナ禍で、自宅からの注文需要が増えるとの読みが当たったのでしょうか? 

実は、コロナはあまり関係ないのです。先ほど申し上げたように、もともと構想自体は20年前からあって、2017年からECサイトの開発をしていました。その構想が形になったのが、ちょうどコロナで生活様式が変わった1年目だったのです。 

まるで駄菓子屋さんのようにサンプルサイズの商品が並ぶDAGASHI台。スマートサロンの店販スペースでは、自由に楽しみながら商品を手に取ることができる 

── 緊急事態宣言が出ていた頃は、いろんな美容室から、「サロンに来られないお客さまからの購入が増えて、とても助かった」との声があがりました。ミルボンiDからの店販が、いまやサロン収益の柱のひとつになっているとの話も聞きます。 

美容室のメリットに関して言うと、決定的に違うのは店販リピート率です。これまでは、美容室の来店周期と店販の購入周期がずれていることも多々ありました。せっかくおすすめしてもらった商品が無くなったとき、次に美容室に行くタイミングと合わないと、ついつい他の商品を買ってしまう。これが、美容室にとっては機会損失になっていたのです。 

2つ目のメリットは、大きいサイズのシャンプーやトリートメントが売れるようになったこと。やはり大きいサイズはご自宅まで持って帰るのが大変なので、ECの方が売れやすい。 

ミルボンiDを使った店販の自宅購入が、サロンの生産性アップに寄与する 

そして3つ目のメリットは、お客さまが家に帰られてから商品のサイトを見てくださること。忙しい店内で美容師さんが1から10まで商品について説明しなくても、家でサイトを見たお客さまが自主的に商品を選んでくださいます。 

このECシステムを構築してから2年半ほど経ちますが、お客さま一人当たりの注文金額は、1万2000円ほどになります。土曜・日曜の夜にご注文される方が多いです。 

── 店販に苦手意識を持っている美容師さんは多いと思います。 

それはやはり、クロージングが難しいのだと思います。「買ってください」と言うのは、ハードルが高い。でも、ミルボンiDがあると「買ってください」がいらない。美容師さんの「売らなくてはならない」という心理的負担が下がりますよね。 

── 美容室でクロージングまでしないことは、機会損失になるのではないかと思っていましたが、逆なんですね。 

逆だと考えています。ミルボンiDを使うようになってから、顧客1人あたりの店販単価が上がったという報告がほとんどです。ただ、多くの人に使ってもらえるようにお声がけいただく部分は、やはり美容師さんにかかっています。 

大人世代とZ世代、双方へのアプローチを

── 今後、Z世代とミレニアル世代が生産人口の4割を占めるとも言われています。これまで大人女性にシフトしてきた美容室も、若い世代に目を向けなくてはならない時代が到来すると考えられます。大人女性のニーズに応えてきたミルボンさんも今後は戦略を変えますか? 

戦略を変えるというよりも、大人世代と若い世代、両面へのアプローチを考えていかなければと考えています。Z世代やミレニアル世代と言われる世代は、デジタル親和性が高い。その世代向けの製品開発も進んでいます。 

たとえば、スマートサロンでは、好みの香りをAIが言語化・診断し、該当する商品を勧めるという体験を用意しています。また、コーセーさんとの化粧品、花王さんとのビューティヘルスケアなど、いろんな知見を借りた商品・サービスの開発も進んでいます。 

さらに4月には、パナソニックさんと協業した、ヘアケア成分をセットできるドライヤーの発売を予定しています。 

スマートサロンでは、商品の香りが体験できるコーナーも 

── それは、家電量販店でも買えるのですか? 

いいえ、買えるのは、「オージュア」「milbon」ブランドをお取り扱いいただいている美容室だけです。ミルボンiDでも買えますので、美容室は在庫を積まなくていいようになっています。 

今後も、美容室のメリットを最大化するメーカーとして、美容室と一緒に成長を続けられる施策を考えていきたいと考えています。 

佐藤龍二 

株式会社ミルボン代表取締役社長 

さとう・りゅうじ/1981年ミルボン入社。プロダクツプロデュース部長、マーケティング部長などを経て、2008年3月より代表取締役社長に就任。新型コロナウィルス感染症流行下においても業績拡大を主導し、美容業界No.1メーカーとして業界をけん引する。 

編集・取材/大徳明子 取材・文/佐藤友美 撮影/杉野碧、佐藤友美 

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