
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第46回は離婚にまつわる基礎の法律知識を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
第46回は「知っておきたい!離婚の基礎知識~前編~」です。
「離婚のことなんて知っておくのはちょっと…」と思うかもしれませんが、日本では3組に1組が離婚しますので、友人にアドバイスをする機会があるかもしれません。
ですので、離婚する・しないにかかわらず、基本的な知識は知っておいて損はありません。
私はXサロンの経営者でAといいます。今回の相談は、個人的な離婚についてです。
配偶者Bとの離婚を考えていますが、何が問題になるかわからないので教えてほしいです。
結婚生活20年、年齢は私Aも配偶者Bも45歳、子どもは18歳のCと10歳のDがいます。
収入は、私Aは、サロン(株式会社)の役員報酬が額面で600万円で、配偶者は、会社員で額面で300万円です。
貯金は、私Aは1000万円で、配偶者Bは500万円くらいと聞いています。
不動産は、結婚当初に購入した私名義のマンション(現在の価値は3000万円)があり、現在もローンを支払っています。ローン金額は月10万円で残ローンは1500万円ほどです。
生命保険は、解約返戻金が100万円ほどです。
子どもの親権は欲しいですが、別居する場合は子どもの養育はあちらになると思います。

離婚の種類
知っておきたい離婚の種類は①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3つです。
(ほかに「審判離婚」というものもありますが、これは離婚の知識がついてから調べればよいです)
離婚をするためには「まずは夫婦(当事者)同士の話し合い」からです。
これで離婚が成立すれば①「協議離婚」ということになります。
役所に離婚届を提出すれば完了です。
細かい条件は「離婚協議書」を作っておくといいでしょう。
ただ、夫婦2人での話し合いだとなかなか進まないことがあります。
その場合には裁判所で話し合いをしますが、これが離婚調停による②「調停離婚」です。
話し合いは、夫婦がそれぞれ別室で待機して、裁判所の調停委員という人に交代で話をする形で進みます。ですので、夫婦が顔を合わせて話をすることはないのです。
そして、離婚調停でも話し合いがつかない場合には③「裁判離婚」(訴訟)になります。
日本では、いきなり裁判離婚の手続をすることはできないので、まずは調停離婚からやる必要があります(これを調停前置主義といいます)。
裁判離婚では裁判官が強制的に離婚を決めることになりますが、ここまで来ると弁護士に依頼する人がほとんどです。
なお、統計によれば、離婚の割合は、①協議離婚は約88%、②調停離婚は約8%、③裁判離婚は約1%です。

離婚で決めることは?
離婚をする場合、決めることになるのは主に以下の6つです。
①離婚するかどうか
②婚姻費用・養育費
③財産分与
④面会交流
⑤年金分割
⑥親権
①離婚するかどうか
お互いが離婚することにOKしてくれれば離婚ができますが、離婚を拒否されてしまうと裁判離婚しかないということになります。
そして、裁判離婚が認められるためには「法律上の離婚原因」(民法770条)が必要です。
法律上の離婚原因(民法770条)
❶不貞行為(浮気)
❷悪意の遺棄(理由なく生活費を払わないなど)
❸3年以上の生死不明
❹回復の見込みがない強度の精神病
❺婚姻を継続しがたい重大な事由(性格の不一致、刑務所に入った、DVなどの事情)
よく相談いただくのが「性格の不一致だから❺にあたる!すぐに裁判離婚したい!」というものですが、実はこれは簡単ではないのです…
離婚する理由が「性格の不一致」の場合、裁判離婚が認められるためには「3~5年の別居の事実」が必要です。結構長いですよね…
ちなみに、裁判では「家庭内別居は別居とはいえない」という点にも注意が必要です(つまり、家庭内別居を5年していても離婚は困難です)。
浮気をはじめとする「法律上の離婚原因がない」という場合、配偶者に離婚を拒否されたら「別居するしかない」ということ、是非とも知っておいてくださいね。
②婚姻費用・養育費
知られていない「婚姻費用」という言葉を是非とも知ってほしいです。
「婚姻費用」というのは、別居をしたときに支払う「配偶者の生活費+子どもの養育費」です。
実は、裁判所のホームページに基準となる「算定表」が公開されています。
>> 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
必要な情報は、❶子どもの人数・年齢、❷どちらが子どもを養育するか、❸夫婦の収入です。
今回の相談では、❶子どもの人数・年齢は「2人・18歳と10歳」なので、算定表のうち(表14)婚姻費用・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)をクリックします。
❷どちらが子どもを養育するかですが、表の見方は「別居したときに子どもを養育する方が横軸、そうでない方が縦軸」です。
❸夫婦収入は、一方の配偶者A(ここでは夫とします)がサロン(株式会社)の役員報酬が額面で600万円ですので、縦軸の「600万円」というところを見ます。
もう一方の配偶者B(ここでは妻とします)は、会社員で額面で300万円ですので、横軸の「300万円」というところを見ます。
そして、以下のように赤い矢印が交わったところが「婚姻費用」(配偶者と子どもの生活費)です。
今回は「10万円~12万円」のちょうど真ん中のあたりなので、婚姻費用は「11万円」になる可能性が高いです。
つまり、離婚が成立するまので間、AがBに毎月11万円を払うことになります。

離婚するまでは婚姻費用ですが、離婚をした後は「養育費」です。
「養育費」は、簡単に言うと、「婚姻費用から配偶者の生活費を引いた金額」です。つまり、純粋に子どもだけの生活費のことをいいます。
今回の相談では、同じように、❶子どもの人数・年齢は「2人・18歳と10歳」なので、(表4)養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)をクリックします。
❷❸も上と同じです。
以下のように赤い矢印が交わったところが「養育費」(子どもの生活費)です。
今回は「8万円~10万円」の下のあたりなので、養育費は「8万円」になる可能性が高いです。
つまり、子C・Dが成人するまので間、AがBに毎月8万円を払うことになります。

これらの算定表は「公立の学校」を前提に作られているので、子どもが「私立の学校」に通っている場合は金額が変わるということも知っておきましょう。
また、お子様が障害をお持ちの場合には働く時間に制限ができてしまうので、別途金額を考慮することがあるので「算定表が絶対ではない」ということも知っておきましょう。
続きは次回へ!
今回の話を「全部知っている」という方は少数派だと思います。
ここでは基礎知識のみをご紹介しましたが、「別居を開始したいけれど近々収入が下がる見込みがある」、「養育費って転職したら変わるの?」などなど、色々な疑問を持たれることかと思います。
是非とも気軽にお近くの弁護士に相談するのがいいと思います。
それでは続きはまた次回で。
今回も読んで下さりありがとうございました。

松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士)
