
「私の一番の強みは、失敗を恐れないこと」と話す植村さん
ユーグレナで取締役代表執行役員Co-CEO兼COOとして活躍する植村弘子さん。実はキャリアの初期の頃、「破壊者」と呼ばれることもあったという。
彼女がどんな思考で組織や業界に風穴をあけてきたのか。その軌跡をたどると、挑戦に必要な本質が見えてくるはずだ。
「勝ちたい」という情熱が、行動の原点
キャリアのスタートは大手食品会社のエスビー食品。競合に負けたくない。その一心で働き始めた。
当時のニックネームは「破壊者」。象徴的なエピソードがある。新人だった頃、日報に「今日の先輩のプレゼンは最悪です。これでは一生、競合には勝てません」と書いた。
「今でも仲の良いエスビー食品の仲間には、『お前、ヤバかったよね』と言われます(笑)。痛い思い出ですね。でも、もう一回あの頃に戻っても、私は同じことをすると思います」
なぜそこまで書いたのか。そう尋ねると「一生懸命だったから」と植村さんは答えた。
「単純に、ライバルに勝ちたかったんです。ライバルよりもエスビー食品をお客さんに届けたかった。すっごくシンプルな動機です。でも、バイヤーへの先輩のプレゼンを聞いたら、『えっ、弱くない?』と思った。だから、日報に書いたんです」
書かれた先輩は当然キレた。でも、先輩たちの言うことは「逃げ」に見えた。
「みんな“できない理由”を探しているようにしか見えませんでした。私はそれが嫌だった。やるなら徹底的にやりたかったんです」
衝突を恐れず、努力を重ねる
植村さんは猪突猛進に行動しはじめた。新人だから知識も経験もない。だから徹底的に「足」を使った。
「とにかくバイヤーに会いに行くようにしました。先輩たちは『バイヤーさんは忙しいから』と理由をつけて動かないんです。そんなの関係ない。チャンスがあるなら、私が嫌な思いをするぐらい平気だと思っていました。すると、だんだん覚えてもらって、呼んでもらえるようになったんです」

社内で先輩に容赦なくダメ出しをし続けた結果、あちこちから「嫌い」と言われるようになった。それでも植村さんは屈しなかった。会社の業績を伸ばしたかったからだ。
やがて行動が結果に結びつき、「あいつは口だけじゃない」と言われるように。「面白い奴がいる」と植村さんを評価する上司が現れ、「俺の部署へ来い」と引き抜いてくれるという異例の展開につながった。
「『お前のことは俺がカバーしてやるから、好きにやれ』と言ってくださって。入社して2年目か3年目くらいのことですね。正直、恵まれていたと思います」
巻き込む力、信じる力
誰よりも動いて、結果がついてきた。まわりも変わり始めた。
「私のパワーを面白がってくれる人たちが出てきたんです。『行け!』と言ってくれるようになって」
動くことで、人の縁もつながり始める。彼女がエスビー食品の新卒時代に担当していた有名スーパーの社長が、現在の仕事にもつながっているという。
「私が暴れていた頃、各店舗を毎日毎日ぐるぐる回っていました。『お前、本当アホみたいに頑張ってんな』って言ってくれた社長が今はさらに偉くなっていて、ユーグレナに入社後に再会しました。すごく可愛がってくださって、いろいろな方を紹介していただいてます」
かつての努力が、時を超えて今の自分を支えている。そう思える瞬間だった。
「彼から見れば、私は今でも“新卒の植村”。会うたびに『うえむらーっ!』と呼んでいただいています(笑)」
失敗を恐れず、バッターボックスに立とう
一番の強みは「失敗を恐れないこと」だと植村さんは言う。
「私、失敗だらけの人生ですから、失敗することに慣れているんです。学生時代もぜんぜん優等生じゃありませんでした。何かあったときに『逃げる』人は、失敗を恐れているからじゃないですか」
エスビー食品の新卒時代も失敗の連続だった。
「そもそも『破壊者』なんて言われるようになると、誰もしゃべってくれなくなります(笑)。それでもいいと思ったからやったんです。自分でまいた種だから、仕方ないですよね」
失敗を怖がらなければ、チャレンジの回数が増えていく。
「バッターボックスに立つ回数が増えれば、失敗も増えます。でも、失敗もいい経験だと思えれば、失敗が怖くなくなるので逃げなくなる。自分の強みも弱みもわかる。その積み重ねです。失敗を恐れてバットを振らなければ、何も始まらないから、私はバッターボックスに立ち続けているんです」
打たれても、「出る杭」であり続ける
「出る杭は打たれる。でも、打たれ続けると慣れますよ」と植村さんは笑う。大切なのは「信じる力」だ。自分を信じ、結果が出ると信じる。そして、まわりが変わっていくことを信じる。
「信じる力って、『いいね』と言ってくれる人を引き寄せる思考なんです。アホみたいにぐるぐる回ってると、まわりも巻き込まれるじゃないですか。もうこれは性格ですね(笑)」
常に全力、常に前進。周囲からは「マグロみたいに止まったら死ぬタイプ」と言われてきた。
「仕事が楽しいんです。忙しくても楽しい。だから仕事がなくなったらまずいと思います。マグロみたいに泳ぎ続けていたい。それは昔も今も変わりません」
「破壊者」と呼ばれる者には、確かな信念がある。情熱で動き、行動で示し、人の心を動かしていく。その姿勢こそが、イノベーションの火種になる。
「もうちょっと大人のやり方もあったのかもしれない。でも、一生懸命やっていれば、結果も出るし、誰かが見ていてくれる。そう信じています」
植村さんの言葉は、「出る杭」になることを恐れず、前に進むすべての人へのエールに聞こえる。

植村 弘子
ユーグレナ
取締役代表執行役員Co-CEO兼COO
うえむら・ひろこ/エスビー食品で5年間、営業・PB商品の企画に従事。その後17年間勤めた一休では、レストラン事業および宿泊事業の営業・営業企画等に従事後、カスタマーサービス部部長、執行役員CHRO管理本部長を歴任した。2023年4月にユーグレナに入社し、執行役員CSXO(最高ステークホルダー責任者)兼人事部長を経て、2024年1月より現職を務める。
取材/大徳明子 取材・文/大山くまお 撮影/漆戸美保
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