【サロン六法】65.パワハラ事例を見て裁判での証拠の大切さを感じてみよう!

特集・インタビュー

裁判の結果は…?

このように11個のうち、Xの主張が認められたのは②と⑩の「2個だけ」でした。

そして、気になる慰謝料は、②は3万円、⑩は5万円です。

以下、まとめてみました。

番号Ⅹ(従業員)の主張内容判決理由
ヘアアイロンの火傷をした客の施術代2万円を払えと請求された請求されて払ったとしても、違法であるとか強要だったとまでは言えない。
ドライヤーを耳の5〜10cmに近づけて「熱さを感じろ」と強要された耳付近に至近距離から熱風を浴びせることで身体的苦痛や屈辱感を与えるもので、指導の範囲を超えて人格権を違法に侵害するといえる。
→慰謝料は「3万円」
「ゆとり世代」「何もできない」などと言われた裏付けとなる証拠なし。
バーベキューの予約電話代を払えと叱られた裏付けとなる証拠なし。
「暗い」「レベルが低い」等と終礼で言われた裏付けとなる証拠なし。
理不尽な叱責や差別的注意を連続でした裏付けとなる証拠なし。
他の従業員もいる場での発言として不適切であるが、違法に人格権を侵害したとまではいえない。
友人からの結婚式のヘアメイク依頼を断ることになった裏付けとなる証拠なし。
適応障害の診断を受けた後の配慮が欠けていた裏付けとなる証拠なし。
体調不良になった後の配慮が欠けていた裏付けとなる証拠なし。
退職したいと言うと「恩を仇で返す行為」「100対0でⅩが悪い」等と言われた表現の適切さを欠く面もあるが、違法な権利侵害とまではいえない。
Yの発言内容だとされるものと似たLINEのやりとりがあったので、その部分については裏付けとなる証拠ありとした。
発言を全体としてみると、Ⅹに対する侮辱的・威圧的なものといえ、退職を慰留するための説得の域を超えて違法に人格権を侵害するといえる。
→慰謝料は「5万円」
年金免除の妨害をされた、離職票が渡されるのが遅かった年金免除は内容不明確で証拠がない。離職票も遅延の程度や損害が不明。
※上記の内容はルーチェ事件(東京地裁・令和2年9月17日Westlaw Japan 2020WLJPCA09178003)の判決文から抜粋・要約したものです。細かい部分は説明を省略しております。

②と⑩が認められたのはなぜ?

(ドライヤーを耳の5〜10cmに近づけて「熱さを感じろ」と強要されたという点)は、YがXの主張に付き合ってしまった(20~30cmくらいだった、とドライヤーを当てたことを認めてしまった)ことが敗因と言えるかもしれません。

録音・録画があったわけではないので、Yはシンプルに「こんな事実はなかった」とだけ反論していれば裁判官に認められなかった可能性があります。

とはいえ、認められた慰謝料は「3万円」なので、Yにとってはほぼノーダメージかもしれませんね。

(退職したいと言うと「恩を仇で返す行為」「100対0でⅩが悪い」等と言われたという点)は、裁判官は「LINEでYが似たような内容を送っていたから、現実でも同じことを言ったのだろう」と考えたので、Yが否定しても認められてしまいました。

録音・録画がなくても、LINEなどのメッセージが証拠として役に立つことがあるという意味では勉強になるケースです。

ただ、こちらも認められた慰謝料は「5万円」なので、Yに与えるダメージは小さいかもしれませんね。

パワハラと裁判にまつわる基礎の法律知識。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

経営者の方へちょっとしたコツ

実際にパワハラ等の行為があったとしても、「裁判で認められるにはそれなりの証拠がいる」ということはおわかりですね。

パワハラのような事案は、言った・言わないの世界。

最近、私の担当したケースでも「そんなことしてません!」と主張していた相手が、防犯カメラにばっちり映ってて撃沈、なんてケースが続きました。

防犯カメラは強い。

経営者の方からすれば「じゃあ結局どうすればいいの?」と思う方もいるでしょう。

・普段から会話は録音・録画されているつもりで丁寧に話す

・叱るときはできるだけ第三者を同席させる

・LINEやメールの文章は残るので、イライラとしたときに打つ文章には注意

おわりに

本日はパワハラやそれに類する行為があった事件をじっくり見てみました。

従業員からパワハラで訴えられたという経営者の方にヒントになれば幸いです。

(次はもっと明るいテーマにしましょうかね?何がいいかな?お楽しみに!)

それでは、また来週。

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士)

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