弁護士に聞く「美容室の業務委託契約」の注意点

特集・インタビュー

業務委託契約の注意点

美容室にとっての主な注意点

編集部
それでは実際に業務委託契約をするにあたり、美容室の経営者側はどんなことに注意すればいいでしょうか?

板崎弁護士
主に、下請法を遵守すること、事実上の雇用契約にならないこと、適切な契約書の作成、濫用(らんよう)的な運用をしないことです。順にお話しします。

業務委託の注意点

◆①下請法(契約書を締結すること等)の遵守

板崎弁護士
美容室は、顧客から委託されたヘアカット等の美容サービスを、個人事業主である美容師に下請に出しているとして、美容室が法人で資本金1000万円を超える場合、下請法という法が適用されると考えられます。

下請法が適用されると、所定の事項を定めた契約書を作成する義務があります。また、サービス提供の日から60日以内に報酬を支払う義務等、下請法上の様々な規制を守る必要があります。

契約書の内容や運用が、下請法に反しないようチェックが必要です。下請法は細かく厳しい規制も多いため、下請法に理解のある弁護士に相談するとよいでしょう。

編集部
法的確認、リーガルチェックですね。個人事業主として1店舗だけ経営している美容室、法人化したけれど資本金は1000万円未満という美容室も多いのですが、こうした美容室には下請法は適用されないのでしょうか?

板崎弁護士
その場合、下請法は適用されませんが、適用されるかどうかにかかわらず、少なくとも、契約書は作成することをお勧めします。
契約書を交わし、契約条件を明確化しておくことは、後々のトラブルを防ぐためにも重要です。

◆②事実上の雇用契約にならないように注意

板崎弁護士
単に「業務委託契約書」というタイトルの契約を交わしても、美容師に細かく指示する等、実態によっては、「雇用契約」(労働契約)に該当すると判断される可能性があります。

その場合、労働基準法に基づき、残業代(割増賃金)の支払義務等の負担が発生し、違反すると、労働基準監督署の立ち入り等のリスクがあります。

なお、労働基準法が適用される労働者にはならなくても、労働組合法が適用される場合があります。労働基準法と労働組合法、この2つの法律が適用される「労働者」の概念には違いがあるのです。

自社内に労働組合がなくても、業界横断的な労働組合(例えば、美容師・理容師ユニオン)に加入し、団体交渉の対象となる可能性があります。

編集部
「契約書があるから大丈夫」ではなく「実態としてどうか」が問われるのですね。具体的に、どのようなことに注意すればいいでしょうか?

板崎弁護士
労働者に当たらないようにするための主なポイントは、次のとおりです。

・できるだけ美容師の業務について指示命令をしない

・個別の依頼を受けるかどうかは、美容師の自由にする

・労働日、労働時間は美容師が自由に選べるようにする

しかし、これらは判断が難しい“程度問題”になることも多いですし、労働法に理解のある弁護士に実態を説明して、相談しておく方が安全です。

◆③明確、適切な契約書の作成

板崎弁護士
業務委託契約の場合、内容は様々ですし、自社にとって、適切と考える内容をきちんと反映する必要があります。
例えば、以下の点を検討した上で、これを明確にした契約書を作成する必要があります。

・美容師に依頼する業務をきちんと網羅しているか
従業員とは異なり、契約書にない業務を依頼することは原則としてできません。
本来であれば別途報酬を払って依頼する内容になるため、これを無償でさせることは、前述した下請法や、後述の独占禁止法違反になるリスクがあります。
(「労働者」に該当する可能性を高める一つの事情にもなり得ます)

・契約の終了に関する定め
契約期間、自動更新の有無、期間中でもどのような場合には終了するか、解約の手続等。
例えば、美容師を指名した予約が入ったまま契約が終了する事態を避けるため、ある程度前に通知をしてもらう等です。

・美容師が自社の顧客を(退職後等に)不合理に奪取することを防ぐための条項
守秘義務、競業避止義務等を入れることも検討しましょう。

・設備利用のルール等
材料、器具備品をどちらが用意するか等も、あらかじめ決めておきましょう。

・報酬ルールの明確性

・その他美容師に守ってもらう必要がある事項

◆④美容師側にあまりに不利な契約とせず、濫用的な運用をしないこと

編集部
考えるべきことがたくさんありますね。経営者側にしてみれば、都合の良いよう、契約書にあれこれ盛り込んでおきたくなりそうです。

板崎弁護士
雇用契約に比べて自由度は高いですが、あまり美容室に一方的に有利だと、公序良俗違反といって無効になる可能性があります。

また、一方的に美容室に有利すぎる契約条件を定めたり、一方的な要求をすることは、独占禁止法に定める「優越的地位の濫用」という違法な行為に該当し、損害賠償を求める民事訴訟を提訴されたり、最悪の場合、当局によって摘発されるリスクも否定できません。

編集部
業務委託契約で働いている美容師が、美容室から損害賠償請求を受けたという話もありますが。

板崎弁護士
美容師が委託した業務を履行しなかったことを理由に、美容室が損害賠償請求をすることは、この請求が合理的であれば、通常問題はありません。

しかし、実際の損害を超える額を請求していたり、話し合いを経ずに一方的に請求した場合には、優越的な地位の濫用に当たる違法行為として、逆に損害賠償請求を受ける理由になる可能性も否定できません。

したがって契約書の内容は、美容室にとって単純に有利であればあるほどよいとは限らず、契約書に基づく運用も、美容師にあまりに不利にならないよう注意する必要があります。

法律に違反しない限度で、自分に有利な契約書を作成したいのであれば、独占禁止法等に理解のある弁護士に相談するのが安全です。

美容師にとっての主な注意点

◆①美容室からの契約終了が容易

編集部
美容師が気をつけることはありますか?

板崎弁護士
雇用契約に比べ、原則として、契約期間の終了等、契約書に定められた手続きによって、契約が終了してしまうことがあります。従業員に比べると、職を失いやすい不安定な立場といえます。

美容師は、そのことを理解した上で、契約期間をしっかり確認して、美容室に更新の可否を早めに確認するとよいでしょう。


編集部より

正直な話、業務委託契約の注意点が、取材前に想定していたよりもずっと多く複雑でした。
後からトラブルにならないよう、契約書をしっかり作り、弁護士のリーガルチェックを受けると安心です。また、実態はどうかも重要なので、こちらも相談しておくといいでしょう。

今回ご協力いただいた板崎さんは、法務省で国の裁判を担当し、公正取引委員会や大手法律事務所などで17年の経験があり、紛争や労働、IT、下請、表示など企業法務全般に強い弁護士です。

業務委託契約書の作成を希望する際や、業務委託契約で不明な点、心配な点があれば、法律相談に乗っていただけるとのことです(TEL03-6270-3504)。

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雇用・業務委託(サロン六法・美容室経営者の法律相談)

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板崎 一雄 (いたざき・かずお)
三浦法律事務所・パートナー
1978年神奈川県生まれ。1999年司法試験合格、2001年早稲田大学法学部卒業後、西村あさひ法律事務所に入所し、その後、巻之内・上石法律事務所やシティユーワ法律事務所を経て、2019年1月に三浦法律事務所を共同で開設。この間、東京法務局・法務省(国の行政・租税・民事訴訟担当)、及び公正取引委員会での勤務経験も有する。主な業務分野は、独占禁止法、下請法、景品表示法、労働事件その他の訴訟、M&A、倒産、契約書作成等の企業法務全般。

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