視力を失いリタイア、渡英、SNSでブレイク ヘアアレンジの匠、ニコ溝口和也さん

特集・インタビュー

SNSでヘアアレンジ動画を公開し、美容の技術を惜しげもなく披露する美容師として注目を浴びたニコ代表の溝口和也さん。国内のみならず、海外からの講習オファーも絶えないという。

アレンジ技術の中でも、感覚で片づけられがちな“ほぐしテクニック”に着目し、理論立てて体系化したマニュアルが1冊の本になった。

『どこにも載っていない ほぐしアレンジ徹底解説』の著者溝口さんとはどのような人物なのか、その横顔に迫った。

※以下、女性モード社からの寄稿をもとに編集しています

視力を失いリタイア、渡英、SNSでブレイク ヘアアレンジの匠、ニコ溝口和也さん

 文・写真 女性モード社

視力を失って一度はリタイア

── 地元である札幌の美容専門学校を卒業された後、上京されたのですね。

最初に勤めたのは神奈川県のサロンチェーンで、その後、下北沢の店舗に異動しました。

── お仕事は順調でしたか?

下北沢の店ではヘアメイクの仕事にも携わっていたこともあって本当に忙しかったですね。不眠不休の日々が続いたことから体調を崩し、目が見えない状態になりました。

── それで離職されたのですか?

何もできませんでしたからね。3カ月くらいして、少しずつ視力が戻ってきたので、別の職種でアルバイトを始めました。

── 美容の世界に復帰されたわけは?

働いていても面白くないと思って…。やはり僕は美容師以外の仕事はできないと実感しました。

ただ、体調のことも考えて、自分のペースで仕事できるよう派遣という形をとりました。同時に旅行というか、海外に行ってみたいという思いもあったので、ある程度お金がたまったところでロンドンに渡りました。

── ロンドンを選んだのは?

親戚がいて仕事のつてがあったのが大きかったですね。実際にロンドンで働いているうちに、ここを拠点として活動していこうという意欲もわいてきました。

── 最終的には帰国されました。

ビザの関係でいったん帰国し、体勢を整えてからと考えていたのですが、資金づくりのために勤めた業務委託サロンの経営者から大きな影響を受けて、海外よりもサロンを経営することへの興味が強まりました。

女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」著者の溝口和也氏
「やはり僕は美容師以外の仕事はできないと実感した」という溝口和也さん

それはスタッフの競争意識から始まった

── 1号店は高田馬場に出店されました。

北海道から出てきた頃は、渋谷・原宿辺りで成り上がりたいという思いもありましたが、これも業務委託サロンで働いた影響で、美容室はどこでやっても成功できると考え方が変わりました。まずは物件ありきで、そこが高田馬場だったということです。

── サロンのコンセプトとして、まとめ髪・アレンジスタイルをお店の売りにしようという構想はあったのですか?

それはなかったですね。サロンビジネスとしては成立しにくいでしょう。きっかけはSNSです。ちょうど流行り始めたころ、うちの店長がその方面の情報収集に長けていて、「みんなでInstagramをやろう」ということになったんです。

そしたら誰が一番フォロワーを増やせるかと、スタッフ同士の競争意識が芽生えるんですよね。僕なんかは北海道から出てきて友人も少なかったですから、フォロワー5人からのスタートでした。

── 今では想像できないですね。

最初は撮影したヘアスタイル写真を載せる程度で、フォロワーが10人になった、また一人増えたと一喜一憂していたんですよ。

でも今から8年前くらいになりますか、アレンジスタイルが少しずつ注目され始めていて、自分のインスタでも、アレンジヘアを載せた時は「いいね」がたくさんつくことに気づいたんです。それからアレンジを多めにアップするようになりました。

そしてフォロワーの多いアレンジスタイルをアップしている人を意識するようになって「こういうスタイルは、どういう風につくっているのかな」と、もともと自分もそんなに得意な分野ではなかったので、いろいろ参考にしました。

── ヘアメイクをされていたころなどは、どうしていたのですか?

ベースはサロンでしたから、やはりきちんと習う機会はなかったですね。なんとなくできていると思っていた先輩から教わっても、実はそんなにうまくない場合が多いんです。

ピンの打ち方をきちんとした知識として備わっている人は少なく、感覚で仕上げている人がほとんどだと思います。実際「美容室でアレンジをやったけど、なんか変になった」という一般の方の声もよく聞きますよね。

── それでご自身で研究しようと思い立ったのですね。

つくり方を乗せたらフォロワーが増えるんじゃないか、と。当時は美容の技術をSNSで公開している人はほとんどいませんでしたから、どういう反応があるのかという期待感があったのと、三つ編みやロープ編みなど、アップスタイルの基本的なことを知りたいという若い女性、それと同業の人にも教えてあげると喜ばれるのではないかと思いました。

ですから、ただヘアスタイルを載せるのではなく、技術の基礎をなるべく多く載せて、写真のコマ撮りや動画などいろいろな方法で発信しました。

そうすることで、次は何を見せてくれるんだろうと、フォローしたくなるじゃないですか。そうしたら数日でフォロワーが1万人くらいに増えて、まとめサイトでも、“自分の技術を惜しまず公開する美容師”としてちょっとした有名人になりました。

女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」108-109ページ
新著「どこにも載っていない ほぐしアレンジ徹底解説」でも、その技術を惜しまず公開している
女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」106-107ページ
最近の人気はナチュラルテイストのスタイルだが、つくりこんだスタイルをつくりこんだように見せないさりげなさが一流の仕事

アウトプットすることで自分もさらに成長できた

── さらに話題となって、今回の著書のテーマでもある“ほぐしアレンジ”も注目の的となりました。

語感からもほぐしの技術というのは雰囲気に走りがちで、感覚の部分が大きいために、きちんと理論立てて説明できないから、解説書でも省略されることが多いんです。実際に僕もそういう部分は多々ありました。

そんな僕の元に、あるサロン経営者の方から講習をしてほしいというオファーがあったんですよ。ほとんど我流の技術ですので「自分の知る範囲でしか説明できないですけど、いいですか?」と念を押したら、「ぜひ」ということでお招きにあずかりました。

── 新しいステージに進んで、発見はありましたか?

自分が美容師というキャリアの中で感覚的に普通にできていたことを、できていない美容師は思ったより多かったということでしょうか。そして、できていない人にやり方を教えてできるようにさせてあげることは本当に難しいことで、ただ、それをすることによって僕自身の技術に対する理解度が高まっていくのを感じました。

アウトプットが大事だとよく言われますけれど、正にその通りで、人に教えている中で、ここをこういうふうにしたらこうなる、こうしたらもっと良くなると、そういうことを繰り返すうちに、デザイン的な理論と、ヘアスタイルの完成度が高まっていきました。

そして、まだ自分が気づけていなかった角度からの質問に回答することによって、他の人はこういう部分が気になるのかと、さらに理論をブラッシュアップできるわけです。ですから僕にとってのアレンジ技術というのは、受講者の皆さんと一緒に追求してきたという意識も強くありますね。

── その技術理論は、頭の中で整理されていたという感じだったのですか?

講習を重ねるうちに中国や韓国からもオファーが入るようになって、当初は海外から来日した美容師に教えるという形式で講習会を開いていたのですが、どんどん人数が増えて、こちらから行った方がより多く教えられるということで出張するようにもなりました。

その際、パターン化したものがあった方が伝わりやすいということで、どう順序立てて教えていくかというマニュアルをパワーポイントでまとめました。

女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」64-65ページ
感覚の部分が大きいとされるほぐしの技術だが、著書では基本技術にたっぷりページを割き、理論立てて解説している
女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」70-71ページ
女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」78-79ページ

ここぞという場面で胸を張って仕事をするための自信を

── そのマニュアルが、今回の著書『どこにも載っていない ほぐしアレンジ徹底解説』のベースにもなっているわけですね。

カットやヘアカラー、パーマと違って主軸のメニューになることはありませんが、卒業式に成人式、結婚式など、需要は絶対にある技術。それでも1つの店舗内において、本当にアレンジスタイルをきちんとつくれる美容師は稀少です。

ただ、学べば学ぶだけ上達できます。カット技術で先輩を超えることは難しいと思いますが、この本で勉強すれば、アレンジの技術で店一番になることは、そう難しくないと感じてもらえると思います。

── お客さまへのアピール度も高そうですね。

僕はお客さま自身のブライダルに美容師として立ち会えることが最高に幸せな瞬間だと思うんですよ。美容師とお客さまというのは、友達とはまた違った信頼関係が結ばれていて、強ければ強いほど、長くおつきあいが続きます。僕もアシスタント時代のカットモデルで今でも来てくれるお客さまがいます。

最初は15歳の高校生だったのが、今はもう大人になって、子どもを産んで、その子がまたお客さまになって、という。そういうお客さまから結婚式の髪をやってもらいたいという時に、技術があるからこそ胸を張ってお受けできるわけです。

── 最後に著書の中で特に見てもらいたいところはありますか。

どこを見てほしいというよりは、順番に見ていってほしいですね。作品だけを見て、このアレンジがかわいいからやってみたいと思っても、基礎ができていない状態では難しいと思います。

身につけるべき技術を順番に理解していくことで、僕がアレンジの技術を積み上げてきたプロセスを共有でき、知識と技術の基礎が着実に蓄積されていきます。行きづまったらページを引き返して何度も繰り返し、自分のものにしてください。

女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」8-9ページ
「行きづまったらページを引き返して何度も繰り返し、自分のものにしてください」(溝口さん)

アレンジ技術で注目を浴びても、それは集客、サロンおよび自身の存在感を示す一要素に過ぎず、店の売りとは別物と割り切る溝口さんは、経営者としての感性も独特だ。

あの時、美容業界から完全に離れていたら、あの時、ロンドンに渡っていたら、もしもを挙げ始めたらキリがないが、その選択が技術本という一つの形に結び付いたことは非常に意義深い出来事であると捉えたい。

女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」著者の溝口和也氏

溝口 和也

ニコ代表

みぞぐち・かずや/北海道理容美容専門学校卒業。都内1店舗、ロンドン滞在や神奈川県内1 店舗を経て2014 年に「ニコ」をオープン。現在は東京・高田馬場、神奈川県藤沢市、北海道札幌市に4店舗を構える。Instagramでのヘアアレンジ動画が注目を集め、メディア出演やセミナー講師、ウエディングのヘアアレンジなど多方面で活躍中。

取材・文・写真/女性モード社 編集/ビュートピア

女性モード社寄稿「ほぐしアレンジ徹底解説」
『どこにも載っていない ほぐしアレンジ徹底解説』
溝口和也(ニコ)著
A4判変型 136頁
定価4,180円(本体3,800円)

「『どこにも載っていない ほぐしアレンジ徹底解説』」をチェック(EC)

「女性モード社」の書籍をチェック(EC)

記事・画像提供
女性モード社
美容師向け出版物を発行して60年。『ヘアモード』『美容の経営プラン』『美容界』などの月刊誌や各種書籍を発行する美容専門出版社。

定期購読/月刊 『HAIRMODE』(電子版『ヘアモードデジタル』 付き)
定期購読/月刊 『美容の経営PLAN』

➡ 定額読み放題プラン(電子書籍)

「女性モード社」の記事をもっと読む

女性モード社の記事下広告バナー(定額読み放題)
AD(女性モード社)

関連キーワード

注目キーワード

新着記事一覧   トップページ  
Top