【ヘアサロン六法】4.解雇 -美容室経営者の法律相談

特集・インタビュー

③裁判例を見てみよう!

実際にあったケースを元に考えていきましょう!

■ 事案の概要

※東京高裁平成28年11月24日判決を参考にヘアサロン向けの事案に変えています

 

XさんはYヘアサロンの従業員です。

1)Xさんは、他の従業員たちに対し命令口調で怒鳴ることを繰り返していました。

(例えば、「仕事のやり方が遅い。あんたのような仕事ができない人は相手にしない!」など)

2)けんか腰の声を聴くと動悸がしてしまう持病を持つ従業員は、Xさんのせいでストレスによる胃痛が起きてしまうほどになりました。

3)また、Xさんは、出勤時に他の従業員に挨拶をしなくなったり無視をしたりしていました。

4)これに対してYヘアサロンの経営者Zさんは、Xさんが実際に怒鳴っていることを確認した上で、再三にわたって態度を改めるよう指導を繰り返しました。しかし、Xさんが態度を改めることはありませんでした。

5)従業員の中にはXさんが原因で退職してしまう人もいました。

そこで、Yヘアサロンは、就業規則の中にある「協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがないと認められるとき」、「会社の社員としての適格性がないと判断されるとき」に該当するとして、Xさんを解雇しました。

Xさんは解雇が無効であると主張して裁判を起こしました。

さて、解雇は有効でしょうか? 無効でしょうか?

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Xさん(ネコ)に怒鳴られるからと退職してしまう従業員(ウサギ)も ※画像はイメージです

■ 結論

「解雇は有効」(=解雇しても問題がなかった)

「あっ、このくらいのケースなら解雇できちゃうんだ」と軽く受け取ってはいけません。

元となった裁判例(東京高裁平成28年11月24日判決)が解雇を有効とした理由もきちんと見ておきましょう。

■ 裁判所が解雇を有効と判断した理由

1)従業員Xさんの言動は、「単に職場の良好な人間関係を損なうという域を超えて、職場環境を著しく悪化させ、会社の業務にも支障を及ぼす」ものであって、就業規則の中の解雇事由に該当すること

2)Xさんを雇用し続けた場合、会社の業務に重大な打撃を与えること

3)Yヘアサロンは小規模な会社であり、従業員Xさんを配置換えすることは困難であり、解雇に代わる手段がないこと

4)代表者のZさんが再三にわたって注意したのに従業員Aさんが態度を改めなかったこと

など

が理由です。

1)Xさんの言動について

従業員Xさんの言動は、「会社の業務に支障を及ぼす」レベルだったことがまず大きいです。

ちょっと悪態をつくレベルではないのです。

例えば、「仕事のやり方が遅い。あんたのような仕事ができない人は相手にしない!」という発言が挙げられていますが、言い方も相応にキツいものだったということでしょう。

このことから、Xさんの口が少し悪い程度であれば解雇が無効になる可能性があったといえます。

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2)ヘアサロンが受けるダメージについて

Xさんを雇用し続けると、体調を崩す人や退職者が出てしまうため、Yヘアサロンが立ち行かなくなってしまうという事情も後押しとなっています。

小さな会社では従業員が欠けたときのダメージが大きいのです。

3)解雇の他に手段がなかったことについて

Yヘアサロンは、Xさんを他の店舗に配置換えをしていません。

配置換えをしていれば問題は起こらなかったかもしれません。

ただ、それはYヘアサロンが小さな会社で配置換えが不可能なため、解雇をするしかなかったからです。

ですから、もしYヘアサロンがいくつか店舗を持っている比較的大きめの会社であれば、配置換えをしていなければ解雇が無効になる可能性はあったといえます。

4)注意をしたのに改善されなかったことについて

そして、Yヘアサロンが従業員Xさんに対して再三注意したにもかかわらず従業員Aが態度を改めなかった、という事実も重要です。

逆に言えば、注意をほとんどしないでいきなり解雇をした場合には解雇が無効になる可能性があったといえます。

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上のケースでは、これらの事情がそろって、「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められる」とされたのです。

④証拠が重要! 弁護士に相談を

上記のケースでは、従業員の証言が主な証拠でした。

もちろん、証言は全く証拠にならないわけではありません。

ただ、証言は「言った・言わない」と水かけ論になる可能性があります。

そうすると、「裁判までもつれ込んだときに備えてどういった証拠を残すか」は重要になってきます。

弁護士は証拠を集めることはできませんが、どのような証拠があれば効果的かというアドバイスは可能です。

少しでも悩みがある方は弁護士に相談してみるとよいでしょう。

おわりに

「解雇」のケースは色々とありますが、最初に申し上げたとおり、簡単に認めてもらえないハードルの高いものです。 

しかし、この裁判例のように解雇が有効とされるケースもありますから、もし「困ったなぁ」という状態になった時は、早めに弁護士に相談してみましょう。

みなさまにとって少しでもこの記事が参考になればうれしく思います。

それでは、また!

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

MATSUMOTO TAKASHI/早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。美容専門学校では「美容師法」の講義を担当。2021年よりデジタルハリウッド大学でも教鞭をとっており、青山学院大学法学部の講義(現代弁護士論)にも毎年ゲストにて登壇している。大学から社交ダンスを続けており、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年はメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもエイジングケアは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
→ 公式サイト:http://y-niko.jp/
→ TEL:045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠

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