Agu.10周年。市瀬一浩社長が示す「新しい働き方とイノベーション」

特集・インタビュー
Agu.10周年。市瀬一浩社長が示す「新しい働き方とイノベーション」

東京オリンピックが開幕する2020年7月24日まで、あと1年あまり。日本中が高揚感にあふれている中、美容業界には2020年夏頃をめどにマザーズ上場を目指している企業があります。

日本最大手の業務委託サロンAgu.(アグ)を展開する株式会社AB&Company。創業から10年で370店舗になった同社は、国内1000店舗、北米1000店舗をめざしています。

これまでの歩み、そして未来への展望について、市瀬一浩社長に聞きました。

多様な働き方の受け皿になる業務委託サロン

── Agu.は2019年5月時点で店舗数370店舗、スタイリスト1700人、フランチャイズオーナー22人、年間来店者数240万人の一大グループです。11月には創業10周年を迎えますが、一番大変だったことは何ですか? 

一番心労が大きかったのは、出店するための資金調達です。事業計画、中長期の見通し、成長戦略の説明をしても銀行は疑心暗鬼だったと思います。 それが分かっていたので辛かったです。

軌道に乗ったと感じたのは30店舗を超えたあたりからです。資金繰りも楽になり、組織ストラクチャーを気にすることができるようになりました。遅いとは思いますが 笑

Agu市瀬一浩社長インタビュー
「業務委託なら時短でも働きやすい。Agu.のスタイリストの約15%が“ママさん美容師”です」

── 出店を続けていくには人材の確保も欠かせません。スタイリスト1700人のうち、常時、勤務している人はどのくらいいるのですか?

毎月店舗がどんどん増えていくので、人員を採用してマネジメントするのは大変です。 一定時間以上勤務している、月に10万円以上の売り上げがあるスタイリストが1600人。5~7万円のスタイリストと合わせて1700人です。

── 働く側にとって、業務委託サロンは勤務形態に融通がきくのが魅力ですね。

1週間や1カ月の短期や不定期で働きたい人には魅力的だと思います。時短で働きやすいため、出産後の復帰先や育児中の勤務先としてママさん美容師に選ばれています。Agu.のスタイリストの約15%が“ママさん美容師”なんです。

美容業界の抱える社会問題にイノベーションを

Agu市瀬一浩社長インタビュー
「業界の問題をひとつずつクリアにしていくのがAgu.の存在意義だと思っています」

── ブランクがある人や新卒へのサポート体制は?

短期集中で技術を習得することにフォーカスし、1年間のスタイリスト育成プログラムを用意しています。

3~5年かかるサロンが多い中で短く思われるかもしれませんが、Agu.ではサロンの営業後に練習するのではなく、日中に8時間みっちり練習ができるため、アシスタントの時に辞めてカット経験がない人でも早ければ6カ月で、新卒でも1年でスタイリストデビューできます。

── 日中に8時間ということは、サロンワークはしないで練習に専念するのでしょうか?

そうです。平日3日間は、練習だけに集中できるようにしています。

1日8時間勤務の完全週休2日制。週のうち3日は練習のみで、残り2日は学んだことをサロンワークで実践します。会社の負担は小さくはありませんが、何より教育が一番大切だと思っていますから大きく投資することが必要なんです。

 2017年までは中途採用のみで事業を拡大してきましたが、事業が新たなフェーズに入ったため2018年から新卒採用を始めました。 離職者を1名出してしまいましたが、現時点での新卒定着率は98.4%と業界と比較してもかなり高く、満足してもらえているということだと思います。

── 早くデビューできると、生活も安定しますね。

賛否ありますがAgu.ではそのように考えています。美容業界の長時間労働・低賃金問題については少しでも早く、改善をしなくてはいけないと思っています。

現在の経済や法律、お客様のニーズにアジャストさせ、不明瞭な体制を全て明瞭な体制に変えていくことで、業界の問題をひとつずつクリアにする。そこにAgu.の存在意義があります。

── 美容業界の抱える社会問題を根幹から変えていきたいそうですが。

Agu.は給料を支払いながら教育に専念してもらい、Agu.アカデミーを通して技術を学んでいただく環境を用意しています。まだまだ整備しきれない箇所はあるものの、他社にはない強みがあります。美容業界の問題は教育環境にあると思っています。

── 人手不足の業界でハイスピードの出店にともなう人員確保ができるのは、ホワイトな就業環境があるからなのですね。業務委託サロンを選ぶ人は、高歩合など金銭面を重視している人も多いと聞きます。

魅力を感じていただいているのは、創業当初からの“日払い制度”だと認識しています。

1日の労力をその日に評価し、見合った対価を企業は還元する。このレスポンスの速さが画期的だと思っています。 さらに新しい体制を構築中です。

業界では当たり前になっているカルチャーを変えたい

Agu市瀬一浩社長インタビュー
「属人的にせず標準化したい。美容業界では当たり前になっているカルチャーを変えたい」

── 市瀬さんは青山の有名サロンに5年間勤め、27歳の時、Agu.の前身となるhair salon aliceを池袋にオープンしたそうですね。青山で続けようとは思いませんでしたか?

有名サロンだからといって、永続的に働こうとは思いませんでした。勉強が済んだら退職しようと自分の中で決まっていました。

低賃金、長時間労働の環境では、終身雇用のイメージも湧かなかった。イノベーションを起こすためには何ができるかと、アイデア探ししかしていませんでしたね。

青山や表参道ではなく池袋を選んだ理由は、事業計画に沿ってリストアップした場所の中のひとつだったからです。

Agu.は今も成長過程であって成功したとは当然思っていません。もっともっと新しい形をつくっていきたいと考えています。

── 駅近の立地で全国展開、顧客は10~30代女性が中心というのは、マーケティングなどの面でも強みになります。

Agu.は1700人の営業マンを抱え、370店舗の店舗網を持っているという認識でいます。まだお話できる段階ではありませんが、健康に近い分野での取り組みなども考えています。

また、電子決済の種類も順次増やしています。若い世代の顧客が多いので、インスタグラムキャンペーンなどのSNS活用も含め、デジタルを強化していく考えです。 企業様とのタイアップも積極的に取り組んでいきます。

── バレンタインをイメージしたヘアカラーを全国全店で提案するという取り組みも印象的でした。カリスマ美容師による提案ではなく、企業としての取り組みなのですね。

ルビーチョコレートというチョコレートが今年の話題だったので、一人の美容師の知名度ではなく世の中のトレンドを踏まえて「ルビーショコラアッシュ」というオリジナルカラーを提案しました。同様の試みを、梅雨対策、夏休み、クリスマスなどのシーズンやイベントごとに行っていく予定です。

カリスマ美容師を前面に出そうとするのは、美容業界が属人的であるという証拠です。この業界では当たり前のカルチャーですが、属人的だと企業はリスクが高まります。 標準化によってお客様のニーズに応えられる強みを企業が作れば良いのだと認識しています。

── どのように組織を強くしているのですか?

サロン、企業への貢献方法は様々ですが、1番は売上だと思っている人が多いと思います。

Agu.は少々異なります。スタイリストは売上ですが、店長以上の役職者についてはマネージメント体制や教育体制への貢献も評価を大きく左右します。 売上だけの評価制度にしてしまうと、それぞれにある長所を見つけることができなくなってしまうと感じ、このような評価制度にしています。

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