
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第67回はぶつかりおじさんを取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
事例から見てみましょう。
相談事例
相談者:Ⅹサロンの経営者A
先日、女性従業員Yがいわゆる「ぶつかりおじさん」に駅で思いっきりぶつけられて怪我をしました。
これって暴行罪か傷害罪だと思うんですが、この2つって何が違うんですか?
実は私もつい先日、品川駅で見たんです。
前を歩く女子高生におじさんが後ろから思い切り「ドンッ!」
謝るどころかそのまま立ち去るおじさん、女子高生は「えっ…?」とフリーズ…
私も呆然、止めに入る余裕もなし。
そんなモヤモヤを記事にせずにはいられませんでした。

ぶつかりおじさんって何者?
その名の通り「わざと思いっきりぶつかってくるおじさん」です。
偶然じゃなくて、「意図的」に体当たりをするのがポイントです。
ちなみに「ぶつかりおばさん」もいます。
なんと私、この原稿を書いた日に東京駅で杖を持ったおばさまに突撃され、さらに足まで踏まれました。
壁際で静かにしてたのに!
ただ、破壊力を考えるとやはりぶつかりおじさんの方が危険です。
なぜぶつかってくるの?
考えられる理由は以下のとおりです。
①社会への怒り・不満のはけ口
「歩きスマホ」の人にイラっとして注意をする代わりにぶつかる。
自分のストレス発散のためにドンっていく人もいます。もはや通り魔です。
②「よけたら負け」理論
根拠不明の自分ルール発動。「俺は絶対道を譲らない!」というやつです。
③相手が驚くのを見てスッとする(←最悪)
人はいきなりぶつかられると、怒る前に「何が起こったかわからなくて驚く」ことが多いです。
そういう反応を楽しんでスカっとするなんて愉快犯ですね…

④単にマナーが終わっているだけ
「譲り合いの精神ゼロ」です。
電車やエスカレーターに乗るときにも平気で割り込みますね、きっと。
刑事的にも民事的にもアウト!
刑法208条「暴行罪」です。
刑法の「暴行」は「不法な有形力の行使」です。
簡単に言えば、不法な=「許されない形で」、有形力の行使=「物理的エネルギーを加える」という意味です。
例えば、殴るだけじゃなくて、「わっ!」っと驚かすだけでも、人の近くに石を投げるだけでも、全部「暴行」です。
ぶつかりおじさんが「わざとぶつかる」なんて余裕でアウトです。
しかも、民事事件でも損害賠償責任を負うことがあります。
被害者の方が怪我をして通院をすれば「慰謝料」が発生しますし、仕事を休めば「休業損害」が発生します。
裁判例には、小学6年生の子が駅の階段を下りる途中の女性に衝突して負傷させたケースで、駅の階段では他人にいきなりぶつかることのないよう通行すべき注意義務違反があるとして約98円の支払いを命じたケースがあります(東京地判平成4年5月29日判例時報1446号92頁)。
