【徹底分析/アルテ サロンHD 2020年決算】 純利益が上場初の赤字、足元の売上は回復

経営・業界動向
【徹底分析/アルテ サロンHD 2020年決算】 純利益が上場初の赤字、足元の売上は回復

業界の動向を把握するには、リーディングカンパニーの分析が欠かせません。東洋経済新報社で27年にわたり記者・編集者として活躍し、2誌の編集長を務めた加藤千明さんが、美容業界の上場企業の決算をくわしく解説します。

第1回は、アルテ サロン ホールディングス。首都圏と関西エリアで320店舗を展開する美容室チェーン大手が、コロナ禍でどのような経営を行ったのか、2020年12月期通期決算から読み解きます。

文・作表 加藤千明 ※図は決算資料より引用

決算の概要

アルテ サロン ホールディングスの2020年12月期連結売上高は78億6800万円。前年比で7.4%減少しました。2015年12月期から5期連続の増収が続いていましたが、新型コロナが響き、6期連続とはなりませんでした。

アルテ サロン HD売上高の2016~2020年度収益の推移

本業のもうけを示す営業利益は1億2300万円で、前年比76.0%減と大きく減少しました。

売上の減少にともない売上原価も減少しましたが、その率は同3.5%減にとどまったうえ、新型コロナへの対応で店舗の衛生面の追加コストなどもあり、販売費及び一般管理費も同1.4%の減少にとどまったことが影響しています。

経常利益も3億300万円で、前年比42.2%の減少となりました。営業外収益で新型コロナの助成金収入を1億5400万円、特別利益でも助成金収入を8000万円計上していますが、特別損失で新型コロナによる感染症関連損失を3億3900万円計上したことから、純利益は1億9600万円の赤字となりました。

純利益の赤字は、2004年の上場以来、初めてとなります。

純利益の変化の要因分析

アルテ サロン ホールディングスの決算説明資料では、純利益について、19年12月期からの変化が要因ごとに示されています。

これを見ると、やはり2020年は、新型コロナの感染拡大ダメージがとてつもなく大きかったことがわかります。

まず、売上高の減少に伴う利益の減少が4億1700万円におよび、これだけで19年12月期の純利益2億6000万円を上回っています。

経費削減で7000万円浮かし、コロナの助成金を2億2400万円受け取りましたが、前述したとおり関連損失は3億3900万円にも達し、減損損失も昨年度を上回ったことから、差し引きで2億円近い赤字を余儀なくされました。

アルテ サロン HD2020年度新型コロナの感染症関連損失の内訳

四半期ベースの動向

新型コロナというこれまでにない大きな波に遭遇した2020年でしたが、この間の業績の推移を、四半期ベースでみてみましょう。

アルテ サロン HD売上高と純利益の推移

グラフは、2017年1~3月期からの売上高と純利益の推移を示しています。

売上高は、季節的な繁閑による四半期ごとの増減はみられますが、基本的には2019年10~12月期までは緩やかながらも順調に前年同期を上回る結果が続いていました。純利益も、若干の変動はあっても、ベースとしては5000万円から1億円程度の範囲での利益を維持していました。

ところが、20年に入り、とくに4~6月期は、売り上げ、利益ともに大きく落ち込んでいます。

4月7日に関東1都3県と大阪府、兵庫県、福岡県に緊急事態宣言が発令され、それを受けて同社も店舗の休業や時短営業を行いました。緊急事態宣言の対象エリアと店舗展開のエリアがほぼ重なっていることもあって、4~6月期の売上高は前年同期比で25%も減少しました。

その後は徐々に回復し、直近の10~12月期では、ほぼコロナ前の水準を取り戻してきています。

3つの異なる事業展開

アルテ サロン ホールディングスは、3つの異なるタイプの事業をブランドごとにすみ分けて展開しています。

①暖簾分け型フランチャイズ事業・・・Ash、NYNY
②メンテナンスサロン事業・・・カット&カラー Choki Peta
③外部加盟型フランチャイズ事業・・・スタイル・デザイナー

①「Ash」「NYNY」は高品質なサービスを提供するデザイン系のサロンを展開する事業で、同社の主軸ビジネスとなっています。美容師が独立してもグループ内でフランチャイズオーナーとして店舗を運営するという独自のシステムにより、現在はAshの8割、NYNYの6割がFC店です。

②「Choki Peta」はカットとカラーに特化し、低価格のサービスを提供する事業で、安さ、速さ、手軽さを売りにしています。こちらは、ほとんどが直営店です。

③「スタイル・デザイナー」は加盟しているオーナーに設備の提供、経営指導やサポートなどを行う、いわゆるフランチャイザーのビジネスとなっています。

アルテ サロン HD業績の2021年1月末店舗数

厳しい環境のなか、グループ全体ではこの1年間に9店舗の純増がみられました。

とはいえ、下の表をみると、2020年がいずれのタイプにとっても厳しい状況だったことがあらためてわかります。とくにハイクオリティサービスを提供し、単価も高い主軸のAshの来店客数の減少が際立っています。

ただ、この売上高は、それぞれカウントされている店舗の売り上げ合計であり、決算で示されたアルテ サロン ホールディングスの企業としての売り上げとは異なることに注意してください。

2020年のキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書と貸借対照表から、2020年の資金の流れを確認してみます。

アルテ サロン HDの決算分析

半期ごとのキャッシュフローをみると、20年上期は、これまでプラスだった営業キャッシュフローがマイナスとなりました。税引き前の利益が赤字だったうえ、新型コロナ関連の支払額などが重なったためです。

投資キャッシュフローも、新規出店などや店舗の改装などへの投資を継続していたため、19年までとほぼ同水準のマイナスが続きました。

しかし、4月の緊急事態宣言を受け業況が一気に悪化したことから、31億円の短期資金を借り入れています。緊急対応として資金を確保したものと思われますが、財務キャッシュフローが大きくプラスとなっているのは、このためです。

営業を再開し、下期に入り客足が戻ってくると、それに合わせて売り上げも回復し、減損損失などの影響もあり、営業キャッシュフローはプラスに復帰しました。ただ、投資を通常の半分程度にとどめキャッシュの流出を抑える一方で、31億円の短期借入金を全額返済しています。

これをバランスシートの変化でみたのが、次の表です。

アルテ サロン HD2019年度~2020年度バランスシート

4~6月期に資金の借り入れを行った結果、6月末時点での現預金が3月末と比べ20億円余り増加し、これに対応した流動負債も30億円弱ふくらんでいます。

一方、12月の期末時点では、現預金の額が9月末時点と比べ約28億円減少し、同じく流動負債も26億円ほど減少していることから、この借入金は10~12月期に返済されたことがわかります。

その結果、現預金は3月末の18億円から12億円弱まで減ることになりました。しかし、それ以外の資産項目に関しては大きな変化はみられませんので、コロナによって財務体質が大きく悪化したということはなさそうです。

2021年の見通し

2021年の業績見通しは、上期は非常に慎重で、下期に回復するというシナリオのようです。

目下、首都圏の1都3県や京阪神の3府県は新型コロナの感染拡大第3波により、再度の緊急事態が宣言されており(京阪神エリアは2月28日に解除)、外出などの抑制が要請されています。今回は、美容室の営業自粛は求められていませんが、それでも不安定な状況にあることに変わりはありません。

アルテ サロン HD業績の2021年度見通し

こうした厳しい環境に対応するため、「技術面・接客面におけるオンライン教育の強化」、「付加価値の高い商品の提案による単価施策や新たなWebマーケティング戦略に基づいた施策」、「PB商品の新ブランド『ennic』の販売拡大」、「加盟店開発の手法と契約モデルの改善」などを着実に実行していくと示されています。

なお、配当については、2020年は1株当たり2円00銭と5円50銭の減配予定、21年は5円00銭を予定しています。

加藤千明(かとう ちあき)
筑波大学を卒業後、山一証券に勤務。1993年7月、東洋経済新報社に入社。電機・化学業界担当記者としてITバブルの全盛期と終焉を経験。2005年より『東洋経済 統計月報』編集長、2010年より『都市データパック』編集長を歴任。『CSR企業総覧』『米国会社四季報』編集部を経て、2021年2月に27年勤めた東洋経済新報社を退社。現在はデータに基づいた分析を強みに『アメリカ企業リサーチラボ』を運営しながら、ファイナンシャルプランナーとしても活動。

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