
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第71回は懲戒解雇を他人に伝えた場合と慰謝料を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
事例から見てみましょう。
相談事例
相談者:Yサロンの経営者Aさん
先日、若手スタイリストXさんを横領で懲戒解雇にしました。
お客さまから「どうしてXさんはやめたの?」と聞かれるたびに「家庭の事情で…」なんてごまかしていたのですが、常連のBさんには本当のことをポロリと伝えてしまいました。
すると、あっという間にXさんの耳に入り「勝手に懲戒解雇の事実をバラすなんてプライバシー侵害だ!慰謝料を払え!」という通知が来ました。
本当に慰謝料を払う必要はあるのでしょうか?
懲戒解雇の事実を他人に伝えたら…
「うちの元スタッフが懲戒解雇になったんですけど、取引先に言っても大丈夫ですか?」
こんな相談もたまにあるものです。
いきなり結論ですが、ダメです。
むやみに言うと慰謝料を払うことになっちゃいます。
先日、令和7年7月18日に東京地裁で判決が出たばかりですが、今回の事例はこれを参考にしています。
ポイントは「懲戒解雇」という点です。
懲戒解雇は、労働法の世界で言えば「死刑」のようなものですから不名誉な話です。
Xさんとしては言ってほしくない内容であることは明らかです。
「このくらいで裁判になるの?」と思われがちですが、意外と多くの事例が裁判にまでもつれこんでいます。

裁判になったらどう判断される?
こういったケースでは、裁判所は
「懲戒解雇の事実を伝える必要はなかった。プライバシー侵害です」
と判断することが多いです。
つまり、Xさんの請求が認められることが大半なのです。
懲戒解雇の事実は、本人が公表されたくない極めてデリケートな個人情報だからです。
業務上どうしても必要な場合であれば、例外的に適法となることがありますが、①「必要最小限の表現であること」、②「正確な事実であること」、③「相手が正当に知る立場にあること」という3条件がそろっている必要があり、レアケースでしょう。
実際に、令和7年7月18日の東京地裁の判決において、裁判所は、会社側に慰謝料5万円の支払いを命じました。
