
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第60回は自転車事故と交通違反を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者でAといいます。
Xサロンでは、私Aも従業員Bも普段自転車に乗っているのですが、先日、従業員Bが自転車事故を起こしてしまいました。
仕事のための買い出しの途中での事故だったのですが、このような場合はサロンのオーナーである私にも責任があるのでしょうか?

車じゃないから大丈夫?
サロンの中にはスタッフの通勤や買い出しなどで自転車を使う機会があるところも多いのではないでしょうか。
スポーティーな自転車を日常的に使っているオーナーの方もいらっしゃいますね。
ただ、運転しているとき「自転車は車じゃないから大丈夫」と思っていませんか?
最近は自転車による大きな事故や高額賠償のケースが増えており、しかも、サロンのオーナーが責任を負う場合もあるため、決して他人事ではありません。
今回は、自転車事故の法的責任に加え、スマホ運転やイヤホン運転に関する罰則など、経営者として押さえておきたいポイントを解説します。
自転車事故における法的責任(スタッフが加害者になった場合)
①刑事責任
人身事故であれば、過失傷害罪(刑法209条)、重過失致死傷罪(刑法211条後段)の前科・前歴がつくこともあります。
②民事責任
治療費、慰謝料、休業損害、後遺障害慰謝料、逸失利益など、数百万〜数千万円規模の損害が発生するリスクがあります。
高額な賠償事案としては以下のようなものがあります。
小学生(11歳)がマウンテンバイクで坂道を時速20~30kmのスピードを出して走っていたところ、被害者の歩行者(62歳)と衝突した事件で、被害者は植物状態となってしまい、約9500万円の損害が認定されました。
(神戸地判・平成25年7月4日Westlaw Japan 2013WLJPCA07046007)
③使用者責任(民法715条)
買い出しなど、スタッフの業務中の事故なら、使用者責任が成立するため、サロンのオーナーにも民事責任(損害賠償責任)が発生する可能性があります。
(労災と違って「通勤中」の事故では使用者責任は成立しません)
(参考)報償責任の原理
民法には「会社は、従業員のおかげで利益を得ているのだから、損失も負担すべきだよ!」という考え方があります。
これを報償責任の法理といいます。
この考え方からいくと、従業員が頑張ってくれるおかげで会社は利益を得ているのだから、従業員が事故を起こしたときの損失も会社が負担してね、ということになります。

