「髪を切る価値」を創造するのが美容師の仕事

【連載】この先を知る。過去を知れば未来がわかる⑤


「髪を切る価値」を創造するのが美容師の仕事

 

【新春 特別企画】
この先を知る。過去を知れば未来がわかる

ウエラジャパン営業副本部長、資生堂プロフェッショナル常務取締役営業戦略本部長を歴任した春田牧彦氏(ピンポン社長)が、美容業界の歴史を振り返ります。

 

カリスマ美容師は、お洒落の楽しさを啓蒙した

1999年秋に、カリスマ美容師の無免許問題が発覚。

この無免許問題によってカリスマ美容師ブームは一気に勢いを失いました。業界に関わる者として、ブームの終焉は非常に残念なことでした。

 

カリスマ美容師ブームの頂点のころは、表参道の交差点を中心とした半径500メートル以内に1500店舗以上の美容室がひしめきあっていました。

ブームは各地に飛び火し、地方都市の主だった商業エリアには、お洒落な美容室が林立。地方版の“美容室通り”が出現します。

身近な存在であった美容室の価値が再認識され、若い人たちにお洒落の楽しさを啓蒙する機会になりました。

 

バブル崩壊から金融危機に至った1990年代は日本経済が荒れた時代であったにも関わらず、この時代の華として美容業界が取り上げられたことで、美容室は低迷した経済の影響をさほど受けることは無かったのです。

 

ブーム終焉と共にヘアデザインが枯渇

カリスマ美容師はデザインで勝負しました。

ブームが終焉すると、因果は定かではありませんが、髪の色は落ち着き、髪は長くなり、それに伴い髪形による個性が失われたように感じます。

すなわち髪形への価値認識が低下し、定番ロングが拡大していったのです。

 

これは後に、美容業に大きな影を落とします。

 

経営者ブーム到来。レッドオーシャンの始まり

美容室経営のノウハウ

美容室経営のノウハウに科学が持ち込まれ、店舗展開、運営、教育の効率化は進んだが・・・

 

この時期、美容業界では、カリスマ美容師ブームに少し遅れて経営者ブームが起きます。

1997年に(株)田谷、2004年には(株)アルテサロンホールディングスが上場し、アースホールディングスが急拡大。SPC GLOBALやトレハロースの会、プログレスといった団体の中で有力な美容室の経営者が事業拡大を御旗に集団活動を活発化します。

これによって情報ノウハウを共有し、多店舗展開が進みます。

 

ビジネスパッケージ、マーケティングパッケージ、教育パッケージなど、美容室経営のノウハウに科学が持ち込まれたのがこの時期です。

これらのビジネスモデルは、カリスマ美容師の商法をベースにしていました。センスを売りにしたビジネスモデルを普及版にして、美容室をブランドとして展開するというものです。

店舗展開、運営、教育の効率化は進みましたが、新たな市場や新たなビジネスを生み出すことはありませんでした。その結果、この業界のパワーゲームを加速させ、業界はレッドオーシャンの競争に突入するのです。

 

さらに、インターネットの普及とSNSの発達がパワーゲームを促進しました。

集客はテクニックに変わり、ウェブを活用したクーポン広告の出現によって、計算で店が運営されるようになりました。

こうした合理的な風潮により、経営はテクニック重視となり、本来美容室のビジネスを支えるはずのヘアデザインや技術の開発力が低下し、気づくと美容室の価値が希薄化していったのです。

 

売り物である商品がぼやけた

カリスマ美容師ブーム以来、これといったヘアデザインは世に出ていないのがその証です。

それによって昨今のお客さまはこう口にしはじめているのです。

「美容室がなくても困らない」。

 

リクルートの調査によると、1年間に一度も美容室を利用しない人は2012年が10%、それが2017年には14%まで拡大しています。

これをどう捉えるのか?

 

ロングストレートでダークヘアの人が増え、グレイヘアのブームが起こり、You Tubeでは消費者向けにセルフカットの技術動画が見られています。

このように美容室に行かなくても・・・すなわち必然性が低下しているのです。

このままではさらに美容室市場は冷え込むでしょう。もう、内なる競争に目を奪われている状況ではないのです。

 

髪を切らなければ存在価値が無くなる

「髪を切る価値」を創造するのが美容師の仕事

「髪を切る価値」を創造するのが美容師の仕事

 

だから美容業界は目先の集客テクニックにばかり目を奪われるのではなく、本来の美容業の本分である髪を切ることに本気で取り組まなければならないのです。

 

髪の長さと来店頻度は反比例します。髪が長くなればなるほど美容室を利用してくれません。

また髪の長さとヘアデザインのバリエーションも反比例します。長ければ長いほどデザインは絞られていきます。美容師の価値を訴える術を失うのです。

 

カリスマ美容師ブームが終焉してからの約20年、競争に目が向くあまり、残念ながら美容室業界にはポジティブなイノベーションが起きませんでした。

SNSやウェブ広告へ過度に依存し、本来大切にすべき美容室の商品(ヘアデザイン)を磨き上げることをおろそかにしました。

 

1970年代、萩原宗氏を筆頭に多くの志を持った美容師の手によってサスーンカットが広められてから半世紀ちかくが経ちます。

美容室業界は再び、ヘアデザインに価値を持つべきなのです。

 

※今回で「この先を知る。過去を知れば未来がわかる」は終わりです。ご愛読、ありがとうございました

 

春田牧彦(はるた・まきひこ)
株式会社ピンポン代表取締役社長。日本大学経済学部卒。ウエラジャパン営業副本部長、資生堂プロフェッショナル常務取締役営業戦略本部長を歴任。2012年、(株)ピンポンを設立。美容業の持つポテンシャルを生かす情報と具体的戦略を提供する。

 


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