
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第63回は定額制サロンの法的トラブルを取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者でAといいます。
うちのサロンの料金プランを「定額制」(サブスク)で月2万円で通い放題にすることを検討しています。
エステサロンを経営する知人は「特定商取引法という法律には注意しないといけない」と言っていたので、ヘアサロンでも何か法律に引っ掛からないか心配です。
定額制(サブスク)にするにあたって気をつけておくべきことはありますか?

はじめに
最近はヘアサロンでも定額制(サブスク)の料金体系にするところが増えています。
経営者にとっては、リピーターを確保できる&安定収入につながるので魅力的な仕組みなのかもしれません。
ただ、定額制の内容や運用によってはトラブルにつながる可能性があります。
この記事では、美容室における定額制(サブスク)サービスの法的な注意点をわかりやすく解説します。
美容室の定額制は「特商法」にはあたらないのが原則
特定商取引法(特商法)は、「概要書面」や「契約書面」と呼ばれる書面にちょっとでも不備があると永遠にクーリング・オフができてしまうこともあるので「厳しい法律」です。
ですので、美容室の定額制(サブスク)が特商法に該当しないかは検討しておきましょう。
中でも、美容室に関係しそうなのが特商法の「継続的役務提供」の規制です。
条件は以下の①~③です。
①役務提供期間が1カ月を超えるもの
②一定の対価を支払う契約があるもの
③指定業種(エステ、語学教室、家庭教師、学習塾など)であること
①②は満たす可能性はありますが、美容室の業務(カット・カラー・ヘッドスパなど)は③「指定業種」ではないため、原則として対象外といってよいでしょう。
でも「消費者契約法」にも気をつけて!
たしかに、形式的には特商法の規制対象ではありません。
しかし、定額制は顧客トラブルが発生しやすい契約形態であることに変わりはありません。
契約書・利用規約の内容や実際の運用を「消費者契約法」などの観点からもチェックすることが重要です。
消費者契約法は「消費者と事業者の力の差」があることから、事業者の不当な行為を規制する法律です。
以下の3類型は特に注意が必要です。
①不実の告知(4条1項1号)
事実と異なる説明をして消費者を誤認させた場合です。
②重要事項の不告知(4条1項2号)
契約の判断に重要な影響を及ぼす事項をわざと告げなかった場合です。
③困惑による契約(4条3項)
勧誘が執拗であったり、退店を妨げたりして消費者を心理的に追い詰めた場合です。
他にもありますが、もう1つ知っていただきたいのが消費者の利益を一方的に害する条項は無効(10条)というものです。

