【美容室の経営戦略】政府による美容業の振興指針を知る

経営・業界動向
【美容室の経営戦略】政府による美容業の振興指針を知る

オーバーストアによる競争激化や人手不足の問題を抱える美容業界。美容室がこの時代を生き残っていくための経営戦略を考えていきたいと思います。

集客、単価アップ、販促、採用、教育、節税、コスト削減、多店舗展開・・・美容室の経営で取り組むべきことはたくさんあります。

でも、その前にまず、政府は美容業界をどのように振興していこうと考えているのかを確認してみませんか? 大きな視点でとらえることで、新たに見えてくるものもあるのではないでしょうか。

美容室の市場分析

美容室を取り巻く市場環境については、どのように分析されているのでしょうか?

美容業を振興するため、厚生労働省の厚生科学審議会生活衛生適正化分科会では、振興指針を5年ごとに改正しながら対策を進めています。

2019年1月11日に発表された現在の振興指針では、「美容業の事業者の動向」「消費動向」「営業者の考える今後の経営方針」の3つにまとめられています。

美容事業者の動向

まずは「美容業の事業者の動向」について見ていきます。

美容所の施設数、従業美容師数が増加

美容所の施設数、従業美容師数は10年前と比較して著しく増加しています。振興指針の資料は平成28年度の数字でしたが、編集部にて最新の平成29年度の数字で作表しました。(データ:厚生労働省『衛生行政報告例』)

美容室・美容師の10年の増加

美容室・美容師の10年の増加

2007年からの10年で、美容室の店舗数は2万8005店舗も増えました。

人口が減少し、少子高齢化で美容にお金をかける世代のボリュームが縮小しているにもかかわらず、美容室は増えているわけですから、オーバーストアで競争が激化するのも当然です。

従業美容師数も8万8268人増えているのですが、店舗が増え続けているため人手が不足してしまいます。

ちなみに日本の人口推移も加えると、以下のようになります。

美容室・美容師の10年の増加

美容室の新規開業は今後も増大

美容専門学校は2004年を境に定員割れが起きるようになりました。

美容師免許の合格者数はピークを迎えた2005年が約3万人で2015年は約2万人と10年で1万人減っているため、休眠美容師の掘り起こしなどの手を打たなければ、人手不足は一層深刻化することになりそうです。

関連記事「令和初の理容師美容師国家試験は美容師2982人、理容師532人が合格」
※第1回から第40回までの理容師美容師国家試験の合格者数を一挙掲載

振興指針では「平成16年(2004年)から平成17年(2005年)頃に美容師免許取得者数が約3万人となる高い水準となっていたことから、美容店の新規開設希望者が増大することが予想される」としています。

なお、日本政策金融公庫の『平成26年度創業融資先』では、美容室を創業する平均年齢は男性が33.6歳、女性が38.7歳です。

2004年に20歳で美容師免許を取得した人は現在35歳。独立して1店舗目を出店する頃と言えそうです。

サロン形態の二極化進む

美容室は小さなサロンが一層増加

厚生労働省『生活衛生関係営業経営実態調査』の平成27年度調査によると、従業者数5人未満の事業者が78.2%に上ります。

平成22年度の69.2%からは9ポイント増。元々、小規模事業者の多い業界ですが、小さなサロンが一層増えています。

美容室経営者の高齢化

この5年で、経営者の高齢化も進みました。平成22年度は60〜69歳が25.0%、70歳以上が10.8%。平成27年度は60〜69歳が32.4%、70歳以上が19.0%で、60歳以上の高齢経営者が51.4%と過半数を超える結果となりました。

振興指針では「住宅地に立地し、中高年の経営者による小規模個人経営の店」と「商業地や交通至便の場所に立地する比較的新しい店や法人経営の中規模・大規模店」との二層分化の傾向が見られるとしています。

経営上の重要課題は「客数の減少」

経営上の課題については、厚生労働省と日本政策金融公庫の調査結果が引用されています。

厚生労働省『生活衛生関係営業経営実態調査』によると、経営上の課題は「客数の減少」が最も多く、「施設・設備の老朽化」「客単価の減少」「原材料費の上昇」「水道・光熱費の上昇」と続きます。

日本政策金融公庫の『生活衛生関係営業の景気動向等調査(平成30年7~9月期)』では、美容業の経営上の問題点は「顧客数の減少」(58.8%)、「客単価の低下」(25.2%)、「従業員の確保難」(20.6%)となっています。

従業者の過不足感としては、「適正」が58.1%となっている一方で、「不足」 が36.9%と約4割を占めています。

美容業の消費動向

平成27年の1世帯あたりの支出額・消費動向については、以下の通りです。(データ:厚生労働省『生活衛生関係営業経営実態調査』、総務省『家計調査報告』)

パーマネント代
・4,280円(前年比241円減)
・平成17年の支出額を100とした場合、61.9(10年で約4割減)

カット代
・5,459円(前年比17円減)
・平成17年の支出額を100とした場合、102.4

美容店1回あたりの費用
・「4,000~5,999円」が 35.9%と最も多く、「6,000~7,999 円」が 22.2%、「2,000~3,999 円」が19.7%(商品の購入費用は除く)

今後の経営方針

「営業者の考える今後の経営方針」は、「接客サービスの充実」46.1%が最も多く、続いて「価格の見直し」21.1%、「施設・設備の改装」19.0%、「廃業」16.2%、「広告・宣伝等の強化」14.8%となっています。(データ:厚生労働省『生活衛生関係営業経営実態調査』)

5年前からの変化が興味深いため、表にまとめました。

美容室経営者の今後の経営方針

「接客サービスの充実」が4割以上を占めてトップなのは変わりませんが、2位以下に動きが見られます。

5年前は22.6%の経営者が「広告・宣伝等の強化」を上げていましたが、平成27年度の調査では経営方針とする経営者は7.8ポイント減の14.8%となりました。

一方、5年前は1割強だった「価格の見直し」が2割強へと倍増。美容室経営における問題意識も変化していることがうかがえます。

「廃業」も4.9ポイント増えました。背景には、高齢になった経営者の後継者不在や経営不振の増加がありそうです。

美容業は国民生活の向上に資するもの

そもそも、なぜ政府は美容業を振興するのでしょうか?

以下は、厚生科学審議会生活衛生適正化分科会による振興指針資料からの引用です。

美容業の営業者が、美容師法(昭和 32 年法律第 163 号)等の衛生規制に的確に対応しつつ、現下の諸課題にも適切に対応し、経営の安定及び改善を図ることは、国民生活の向上に資するものである。このため、生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(昭和 32 年法律第 164 号。以下「生衛法」という。)第 56 条の2第1項に基づき、美容業の振興指針を定めてきたところであるが、今般、営業者、生活衛生同業組合(生活衛生同業小組合を含む。以下「組合」という。)等の事業の実施状況等を踏まえ、営業者、組合等の具体的活用に資するよう、実践的かつ戦略的な指針として全部改正を行った。

美容業の経営の安定及び改善を図ることは「国民生活の向上に資するもの」だからだと明記されています! しかも昭和32年(1957年)から60年以上にわたって振興策が講じられてきました。

また「美容業は、衛生的で、かつ、容姿を美しくしたいという国民の文化的欲求に応えるサービスを提供することで、国民生活の充実に大いに寄与してきたところである。 」ともあります。

美容業がQOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)の向上に寄与する存在であることは、政府のお墨付きということですね!

 

振興指針は業界の実態・課題を反映しているため当たり前と思われることが多かったかもしれませんが、少しでもご参考になれば幸いです。

 

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