【徹底分析/ヤマノHD 2021年決算】 新型コロナで最終赤字、M&A成長新戦略は足踏みも

経営・業界動向

業界の動向を把握するには、リーディングカンパニーの分析が欠かせません。東洋経済新報社で27年にわたり記者・編集者として活躍し、2誌の編集長を務めた加藤千明さんが、美容業界の上場企業の決算をくわしく解説します。

第3回は、ヤマノホールディングスの2021年3月期通期決算を取り上げます。

【徹底分析/ヤマノHD 2021年決算】 新型コロナで最終赤字、M&A成長新戦略は足踏みも

文・作表 加藤千明 ※図は決算資料より引用

日本初のパーマ技術指導者である山野愛子氏を創始者とし、一族が美容業を中心として幅広く展開しているヤマノグループ。その唯一の上場企業であるヤマノホールディングスが2021年3月期の決算を発表しました。

ヤマノホールディングスは、山野愛子氏が提唱した「美動五原則」を企業理念とし、「すべての女性がより美しく、健康でハツラツと光り輝くよう、「真の女性美」をつくるお手伝いをいたします」とミッションを表明しています。

「美動五原則」とは、女性の美しさの基本を「髪」「顔」「装い」「精神美」「健康美」に求め、その五つの美を整えることで女性の真の美しさを引き出そうとする考えであり、五つの美がバランスよく調和し、相互に影響し合って、真の人間美が生まれるとしています。

ヤマノHD 2021年決算 美道五原則

決算の概要

5月14日に発表した2021年3月期決算によると、連結売上高は127億100万円で、前年比9.7%減少しました。

内訳は、美容部門が4.7%減の21億1900万円、和装宝飾部門が13.2%減の90億4800万円、健康関連や生活関連商品も訪問・催事販売を行うDSM部門が24.9%減の10億5700万円となっています。

要因としては、新型コロナウイルス感染症の拡大により、美容室の店舗休業や営業時間短縮による来店客数の減少、成人式や卒業式などイベントの中止、展示販売会の中止などの影響があげられます。

ヤマノHD 2021年決算 収益の推移

本業のもうけを示す営業利益は3億3100万円で、前年比6.4倍となりました。

販促の見直しのほか、Web会議やリモート研修の拡充などを通じて店舗運営費や管理費などを削減したほか、休業・営業短縮期間中の店舗の固定費などを特別損失に振り替えたことで、販売費・一般管理費が15.9%(11.5億円)減ったことが効いています。

また、特別利益で新型コロナの助成金収入を4億5600万円計上した一方で、特別損失として新型コロナウイルス感染症による損失7億7400万円、固定資産の減損損失と、のれんの減損損失をそれぞれ1億円計上しています。

その結果、当期純利益は3億2400万円の赤字となりました。

和装宝飾が事業の主柱

ヤマノホールディングスは、現在、大きく3つの事業から成っています。

1つ目は美容事業です。

ヘッドスパが特徴のアンチエイジングサロン「My jStyle by Yamano」と、ファミリー向けの「PLAZA HAIR」に、2019年10月に買収した株式会社L.B.Gが展開するハイクオリティサロン「La Bonheur」を加え、首都圏と関西を中心に89店舗を展開しています。

また、東京・吉祥寺でネイルケアサロンを3店舗運営しています。

2つ目が和装宝飾事業です。

この事業が売上高のおよそ7割を占めており、同社の主軸ビジネスとなっています。

和装部門は、「きもの愛-Aiko-」「きもの京都」「きものの錦」「銀座きしや」「すずのき」「たまゆう」「ら・たんす」「きもの日本橋かのこ」など各種ブランドで全国107店舗を展開しています。

着物や和装小物の販売だけではなく、着付け教室を開催したり、アフターフォローのための情報発信なども行っています。

宝飾部門は「YUKI BELLEFEMME」は、東京都内と福島、静岡で4店舗を展開中です。

3つ目がDSM事業です。

ミシンの訪問販売からスタートしたこの事業は、現在、ミシンを中心に宝飾や呉服、健康関連製品などの訪問販売、展示販売会の開催を全国で行っています。

上のグラフはこの5年間の四半期の事業別売上高の推移を示しています。

直近は和装宝飾事業が主軸であることは先に指摘しましたが、5年前までさかのぼると、スポーツ事業や卸売事業も行っていました。

ただ、スポーツ事業については、2017年5月にRIZAPに売却し、事業から撤退しました。

卸売事業は、同じく2017年5月に事業を担っていた子会社の堀田丸正の株式を売却し、こちらも事業から撤退しています。

M&A重ね事業拡大

ヤマノホールディングスは、2000年代前半に多くのM&Aを行い、事業を再編・拡大してきました。しかし、シナジー効果が発揮できなかった事業や採算の悪化した事業により、業績に大きな影響を与えた時期もありました。

スポーツ事業と卸売事業から撤退したことで売上高が約4割減少した2018年3月期の有価証券報告書では、「成長戦略の柱であるM&Aにより、収益拡大が見込まれる新規事業の開拓を積極的に進めていく」との方針を掲げています。

その言葉通り、2018年7月にネイルサロン運営のみうらを買収、翌2019年には10月に美容室チェーン「La Bonheur」を展開するL.B.Gを、11月にはかのこから和装小物販売事業を譲受するなど、M&Aを活発に行っています。

ヤマノHD 2021年決算 事業拡大と再編の変遷

2019年12月、学習塾「スクールIE」のフランチャイズ教室を展開するマンツーマンアカデミーを子会社化し、教育事業に参入することを発表しました。

これまでのM&Aでは、美容事業や和装宝飾事業の強化に軸足が置かれていましたが、ターゲットとする事業領域を拡大し、新たな収益を獲得する戦略へと舵を切りました。

ヤマノHD 2021年決算 M&A戦略

新たなM&A戦略では、事業領域として、教育のほか、観光や医療、飲食があげられています。

この時点では、外国人観光客の増加とインバウンド消費の拡大は、東京五輪・パラリンピックの開催を控え、国の成長戦略の1つとして最有力視されていました。

したがって、消費者向けのサービスを長く手がけてきた同社にとって、これらの分野をターゲットとするというのは、当然の流れだったといえるでしょう。

新型コロナでターゲット事業領域にダメージ

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、出鼻をくじかれた格好となりました。

M&A新戦略の第一号であるマンツーマンアカデミーの株式取得が完了した直後の2020年4~6月期は、首都圏の1都3県と、大阪府、兵庫県、福岡県に最初の緊急事態宣言が発令されたことを受け、店舗の休業や営業短縮を余儀なくされたことから、最終損失が5億円を超える赤字となりました。このため利益剰余金を取り崩すこととなり、純資産が大きく減少しました。

本来であれば、この資金を基にM&Aを積極的に活用した成長戦略を進めるシナリオだったはずです。

続く7~9月期は、助成金の支給なども加わり黒字を回復したことから、純資産も10億円を回復しましたが、7~9月期と10~12月期には借入を行い、手元の現預金を増やしています。2020年3月末に20億円だった現預金は、同年末には53億円と2.5倍に膨れています。

今年3月、ヤマノホールディングスは約1億円の第三者割当による新株発行を行いました。このうち8000万円については、今後のM&Aのための資金とすることが示されています。

また、6月の株主総会で減資を付議することも発表しました。

具体的には、現在の資本金1億円のうち7000万円と、資本金に繰り入れた3月の第三者割当増資分の半分をその他資本剰余金に振り替えるとともに、資本準備金に繰り入れた第三者割当増資分の残りの半分もその他資本剰余金に振り替えるというものです。

新型コロナは、変異株による感染の拡大で、多くの地域で緊急事態宣言が適用されており、まだまだ予断を許さない状況にありますが、そのような不透明な状況のもとでも、機動的にM&Aを行えるよう資金を確保するという狙いが見て取れます。

ただ、ターゲットとしている事業領域は、とくに観光や飲食など、このコロナの状況下で最もダメージを受けている業界です。いずれ回復するとしたとしても、現在の状況では成長事業として手を出すにはリスクが高い分野であることは否めません。

当面は、既存事業である美容や和装宝飾のテコ入れをしつつ、新たな成長の道を探るという難しい舵取りが続くことになりそうです。

加藤千明(かとう ちあき)
筑波大学を卒業後、山一証券に勤務。1993年7月、東洋経済新報社に入社。電機・化学業界担当記者としてITバブルの全盛期と終焉を経験。2005年より『東洋経済 統計月報』編集長、2010年より『都市データパック』編集長を歴任。『CSR企業総覧』『米国会社四季報』編集部を経て、2021年2月に27年勤めた東洋経済新報社を退社。現在はデータに基づいた分析を強みに『アメリカ企業リサーチラボ』を運営しながら、ファイナンシャルプランナーとしても活動。

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